会長メッセージ


学校と社会を結ぶ日本の新しい「色の学び」をどうしたらいいのか?


president
日本色彩教育研究会 会長・群馬大学教授 茂木一司


 戦前からはじまり,70年を超える歴史と伝統ある日本色彩教育研究会(色彩教育研究会改称)のリーダーをお引き受けし,第3期目になりました。
 会をリニューアルするにあたり考えたのは,「色彩教育研究会」の原点は何かということでした。本会は当時の美術教育界をリードしていた先人たちが,幼少中学校の色彩教育を考える研究会として発足したものです。その後の社会の必要からカラリストと呼ばれるさまざまな分野で色彩教育に携わる皆さまが加わり,会は学校教育を中心としながらも,広く専門教育や生涯学習を巻き込みながら発展して参りました。
 リニューアルにあたり,名称変更,会則の整備,理事会の刷新,近畿・九州支部の経理の透明化,機関誌『色彩教育』の充実,事業の刷新と拡張(出版事業:『色のまなび事典』刊行,色彩教育教材の開発,新たな研修会の実施:幼児部会など)を推進してまいりました。しかしながら,会の総合的な活性化という長年の懸案についてはまだまだ道途中です。いわゆる財政の健全化のために,会員の若返りと新たな会員の獲得,さらに賛助会員制度の新設により,色彩関連企業や美術教育関連団体への協力依頼等の課題が新しくできました。本部(東京)と近畿・九州支部はそれぞれが切磋琢磨する研究会として,財政を含めて互恵的な関係性を構築できたらと考えています。これらの案件について,会員の皆様のご支援・ご協力で進めて参りたいと存じます。

学習指導要領図画工作科・美術科の〔共通事項〕への注目と色彩教育
 平成20年度学習指導要領の図画工作科・美術科に〔共通事項〕ができて,あらためて「色彩の学習」に注目が集まっています。学習指導要領の領域上の色彩教育は昭和26年から消え,色名や色相などの基礎知識は昭和52年まで,その後は色のイメージを表す学習が残されているだけになってしまっています。平成20年度の〔共通事項〕の設定は広義の美術の独自性・専門性を教育の中で活かす意味で,色彩教育へのエールと受けとめています。しかし,色彩だけを取り上げる美術教育というものは存在しません。〔共通事項〕の設定の真意は周知のように,領域ごとに育成される能力概念の総合化です。(広義の)美術教育で「形や色などを基に自分のイメージを持つこと」がポイントです。本学会の役割は,リニューアルシンポジウムで語れた「色を豊かに感じ取る学び」を,平成28・29年度の学習指導要領で示された主体的に学ぶ子どもと教師,専門家などでつくりあげていくことを目ざしています。

震災以後の日本の色彩教育を方向づける
 東日本大震災から8年余りの歳月が経過しました。リニューアル後の最初の本部研修会では,事前に現地を訪問し,女川出身で石巻の中学校美術教師の梶原千恵さんから,「避難住宅へ表札を届けるという色が被災地を元気づける実践」,つまり美術教育が人のこころを和ませ,豊かにする企画を,本会の復興とも重ね合わせて実施しました。梶原さんの復興支援の色によるアートプロジェクトはその後,カナダのアーティストとのコラボレーションに発展し,さまざまな国の多様な人々や文化をむすぶ役割をしています。このことから,本会の活動は「色彩」をコミュニケーションのためのメディアととらえ,国際理解や多文化共生へ発展し,人々が色という文化を共有し,つながる教育へと方向づけられたと感じました。その後の研修会は「感じる・学ぶ・伝える:豊かな色の世界」と題する衣食住をテーマにした講座,情報メディア時代に対応した「デジタル色彩教育のこれから」,そして今後の共生社会構築に必要な「インクルーシブな色彩教育」も今後の大きな研究課題と思っています。

社会にコミットし発信する組織へ
 現代社会のカラー化の時代に,日本色彩教育研究会は何をすべきか?デジタル色彩の研究を通して,子どもたちがさられるアニメ・ゲームの日常的な刺激の強い色彩環境を心配するだけでなく,学習としてどう構築できるのか。一方で,透明水彩の淡い色の変化や白に白を重ねる日本の「かさねの色目」などが感じとれる色彩の学習を通して,四季が生みだす細やかな色彩感覚を子どもたちに伝えるための学習題材の開発も必要です。日常生活の中で使える「色の学び」を学校の図工美術でどう保証するのか?そして,学校の色彩教育が個人の生活や社会の中で活かされ,拓かれていってほしいと考えています。本会に賛同していただいている会員の皆様には,ご自身の色彩研究や教育等を通して,小さなそして大きな社会への貢献を期待しています。

色彩教育(学)を支える人材育成をする場になる!
 日本色彩教育研究会には,多様な色彩教育指導者の皆様が入会し,それぞれの活躍しておられることは周知しています。しかし,会としてのまとまりという点で今ひとつ発信ができていません。
 今まで研究部会の設置や公募研究など,さまざまな手立てもおこなってきました。今後も会の活性化すなわち「色彩教育(学)における教育内容やカリキュラム,教材開発など」をしていくことはもちろんですが,会を元気にしていくためには,新人が入会し,自ら色彩教育の道(未知?)を切り開き,自分ごととして,色彩教育を考え,実践していただくことです。そのためには,色彩の学びたい若者たちにもっと呼びかけをお願いします。
 どんな小さな場所でもいいので,色彩を学ぶ場づくりをお願いします。色がヒト・モノ・コトをつなぐ協同的創造をつくっていきたいと考えています。本会は私たち会員の高い志によって,発展します。本会のために会員の皆様のさらなるご支援を重ねてお願い申し上げます。

(2019年5月更新)

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